Perfoming Arts Critics 2013

若手の書き手によるレビューブログです。2013年11月から12月に上演される舞台芸術作品についての批評を中心に掲載していきます。

「何でもあり」のホスピタリティ −劇団子供鉅人『HELLO HELL!!!』大阪公演

 人が死ぬというのはなんと愉快なことか、と思った。あくまで舞台上の話だ。

 対面式舞台、舞台上には地獄の業火を連想させる赤を基調とした華やかな色合いの段が2段。上段には悪魔や鬼の仮装をしたミュージシャンが並ぶ。舞台前面に並んだ豆電球、そのひとつひとつには髑髏を模したシェードが取り付けられ、キャバレーや見世物小屋の舞台を想起させる。10月の終わりと11月の頭をまたぐ時期に行われた大阪公演は、どの装飾もハロウィンに合わせてこの舞台が作られたことを連想させる。

 舞台は死後の世界、地獄。そこに住む人々は何度死んでも、風が吹けば生き返る。死ぬことで金銭を稼ぐアルバイトまで存在する。「ヘル」という単位の貨幣によって成立する地獄の社会は、現実のそれよりも過酷な格差社会として描かれ、風刺的だ。物語は淫蕩の限りを尽くして、女に恨まれて殺された男が地獄に堕ちるところからはじまり、その男をとりまく地獄で暮らす様々な人々のエピソードを羅列する群像劇として展開する。登場するキャラクターたちは、生前に主人公によって弄ばれた姉妹、彼女たちに殺された主人公の家族、焼死を生業にする土方風の男、死んだことに気づかず地獄を彷徨う新婚カップル、一攫千金を狙うチンピラ集団、鬼、悪魔、天使とどれも個性豊かで、どこかバタ臭い。随所に90年代のホラーを揶揄したファミリー洋画の影響なんかが垣間みられる。

 舞台上の役者たちの容姿がどれも個性豊かで、視覚だけですでに見世物小屋のようだ。内容も少し要素を盛り込みすぎて構成が散らかり、パフォーマンスも力押しで狭ってくる印象も強いが、不思議とそこに窮屈な押し付けがましさはない。客席に迫る方向で作られた演技にも「もてなそう」「受け入れよう」という姿勢が盛り込まれているように感じさせる。多種多様な人たちが舞台上で暴れ回る「なんでもあり」の空間は、どんな人でも受け入れるホスピタリティを源泉に立ち上がると感じた。

 それならば、この演目が受け入れようとした一番大きなものは「生」そのものではないか。それも「死」にまつわるおふざけを用いての試みだ。舞台上で人が何度も、たくさん死ぬということ、そしてそれを可笑しいこととして機能させられることは演劇特有ではないか。本当にそこで人が死ぬという本当にシリアスな事態はまず起こらないであろうことが担保にされているからこそ、それは不謹慎なおふざけとして成り立つのだ。今回の劇では、それが単なるギャグに終始するのではなく、生きることの苦しさを皮肉った風刺になる。何度も死ぬという事態がむしろ生きることの苦しさを強調する。極めつけは、終盤で彼らに向けて歌われる「もう生き返るな」という趣旨のバラードだ。このシーンはとても感動的だった。生きることを苦役として認めた上で、それを受け入れること、さらには、そのような辛い出来事としての生を受け入れようとする人を受け入れたいとするのが作り手の姿勢であると感じた。生きることは辛い、辛さも受け入れよう、辛さに歯を食いしばる人は尚受け入れよう、そのような態度で客席に向かう子供鉅人の演目は実に寛容だ。こんなにも舞台上でたくさんの死が描かれるのに、これはとても懐の深い優しさを終演後に感じることのできる芝居だ。

 

伊藤 元晴(いとう もとはる)

1990生まれ、京都府京都市在住。大学生。象牙の空港(http://ivoryterminal.bufsiz.jp/)主宰。

http://pac.hatenablog.jp/entry/2013/11/09/140208