Perfoming Arts Critics 2013

若手の書き手によるレビューブログです。2013年11月から12月に上演される舞台芸術作品についての批評を中心に掲載していきます。

空気を読む―小沢剛『光のない。(プロローグ?)』

小沢剛の演出・美術による『光のない。(プロローグ?)』。本公演は、開幕してからの評判が客を呼び、連日当日券が売り切れ追加公演まで行う事態となった。私自身、「ネタばれになるから詳しくは言えないけど、とにかくこれは行くべき」という声を四方から…

脱げるところまで脱いでしまった、そのあとで

初めて制服を身につけたとき、なぜこんな高いお金を払ってセンスのない肌触りの悪いものを着なくてはならないのかと、とても不満に思った。文句ばかり言っていた。だが、割り切って着ていると次第に感覚がマヒし、慣れてくる。息苦しさを感じることもままあ…

目を合わせないこと

本来ならば客席であるところに観客は座り、少し見上げる形で客席側に立つ俳優たちを観る。物語は、とある町にいる、とある女の登場から始まる。俳優たちは皆、何か制限が加えられているようにぎこちなく震えながら演技し、発せられる言葉も感情を抑えられた…

文字と共に旅をする

観客が劇場に入ると、目の前には大きな二枚の絵画がぶらさがっている。片方はしっかりと枠に貼られているキャンバスに描かれているが、片方は枠無しである。両方の絵に描かれているのは、本作、『光のない。(プロローグ?)』の戯曲の文章である。正しく言…

揺らぐ境目/その周りで

1. 揺らぐ境目 象の鼻テラスの 3面の外壁を兼ねる大きなガラス窓からは、象の鼻パークとその向こうの横浜港が広く見わたせる。Theater ZOU-NO-HANA vol.5『象はすべてを忘れない』(柴幸男(ままごと)演出、以下『象』)は 11月一杯の公開稽古を経て、12月…

恐ろしいこと満載の人生 –北千住の恋人–

『四家の怪談』は、北千住界隈をめぐるツアーパフォーマンス形式の演劇であると聞いていた。スタート地点となる集合場所のホールに行くと、友人のH嬢に会った。F/Tの会期中は彼女によく会う。 作・演出の中野成樹は、海外作品の大胆な翻案「誤意訳」で知られ…

Qは「形」を問う――Q『いのちのちQⅡ』

Q『いのちのちQⅡ』は〈O〉と〈Q〉という「形」に貫かれていた。 ニンゲンの世の中の「形」に飼い馴らされきれない、そこからはみ出している、無理している存在が気になっている。(Q公式ウェブサイト) この紹介を書いたのが誰かはわからないが、しかしここ…

【対談】F/T13公募プログラム全演目&F/Tアワードを語る[part3]

★[part1 公募プログラム国内演目編]はこちら ★[part2 公募プログラム海外演目編]はこちら ■薪伝実験劇団『地雷戦2.0』[作・演出 ワン・チョン] 2013.12.05〜12.07@シアターグリーン[落○ 山崎○] 落:私、これ初日に観たあとに山崎君にメールしたよね。「全然…

【対談】F/T13公募プログラム全演目&F/Tアワードを語る[part2]

★[part1 公募プログラム国内演目編]はこちら ★[part3 F/Tアワードと演劇批評の未来編]はこちら ※各自、観劇したものは各演目名称の直後に○、未見の場合×を記した。 ■ゴーヤル・スジャータ『ダンシング・ガール』[振付 ゴーヤル・スジャータ]2013.11.26〜11.2…

【対談】F/T13公募プログラム全演目&F/Tアワードを語る[part1]

フェスティバル・トーキョー(以下F/T)では2010年度から、40歳以下のアジアの演出家を対象にした公募プログラムの上演を行っており、アジアの若手カンパニーの作品を日本で観る機会となっている。公募プログラムの詳細はこちらのF/Tのページを参照。 最も新…

あたらしい星座をなぞる指先:PortB『東京ヘテロトピア』

官能をはたらかせて演劇を観た経験が、実はあまりない。悪い癖だとは思いながら、提示されるそれの表象するもの、意味を示す記号、言葉をつい追いかけてしまい勝ちになる。記号に変換できないもの、たとえば気配や嗅覚、あるいは味覚のほうにこそ、じつはひ…

銃殺刑の上演 −地点『ファッツァー』

本作は京都にできた劇団のアトリエ「アンダースロー」での上演となる。舞台は、古い住居のはがれた外装のようにくすんだ緑色の壁の前に人、一人通れる分ほどのスペースが水平方向に広がる。上手には不揃いなドラムセット、バスドラムの穴の上には「Fatzer」…

〈旅〉から〈遠足〉へ −サンプル『永い遠足』

1,はじめに 『永い遠足』周辺のテクストから サンプル『永い遠足』は『オイディプス王』をモチーフとして用いた作品であるが、その『オイディプス王』の物語における〈旅〉が問題とされる時、それは英語圏においては一般的に「journey」という語によって語…

虚しい廃墟 −『石のような水』

この演目はソ連の映画監督、アンドレイ・タルコフスキーの2本の映画を元に構成される。一本は1979年製作の作品、『ストーカー』。隕石の墜落によって、その墜落地帯の周辺に出現した特殊な地区「ゾーン」。その中心には「部屋」と呼ばれる場所があり、ここに…

「何でもあり」のホスピタリティ −劇団子供鉅人『HELLO HELL!!!』大阪公演

人が死ぬというのはなんと愉快なことか、と思った。あくまで舞台上の話だ。 対面式舞台、舞台上には地獄の業火を連想させる赤を基調とした華やかな色合いの段が2段。上段には悪魔や鬼の仮装をしたミュージシャンが並ぶ。舞台前面に並んだ豆電球、そのひとつ…

注目のゆくえ

いちどきに与えることができる注目の総量は、とても限られている。例えば舞台上でスポット照明が落とされるのは観客の限りある注目をそこへ集めるためだし、また例えば観客が同じ上演に何度も足を運ぶ理由のひとつは、前回見逃した対象にあらためて注目して…

あわいに浮かぶ「LOAD」の文字―ラビア・ムルエ『雲に乗って』

男は机の上に2、3あったDVDの束を、ひとつにして高く積み上げ、それらを上から順番に1枚1枚再生していった。再生が終わる頃にはまたケースを開けて、DVDをデッキに挿入し、再生ボタンを押す。右手が不自由らしく、これらは全て左手で行われた。彼は約1時間の…

交差点を具現化した演劇

フェスティバル/トーキョーの会期が始まるより前、『四家の怪談』チケット早期購入者特典として、今回の公演の台本となる小説が郵送されてきた。「東海道四谷怪談」をもとに中野成樹が書き下ろした創作民話だという。 以下、簡単なあらすじである。足立区五…

わっしょいハウス『必要と十分』のススメ

今週末の予定を決めかねているあなたにわっしょいハウスの公演『必要と十分』を全力でオススメしよう。 7月に見た『猫隠しまっすぐ』は衝撃的な面白さだった。 印象としてはチェルフィッチュ×五反田団、あるいは小説で言えば柴崎友香×森見登美彦。とぼけた…

観客は観劇を体験することができない

ツアーパフォーマンス、もとい、ツアー。中野成樹と長島確により制作された『四谷雑談集』そして『四家の怪談』は、『四谷怪談』を題材に、都内のとあるエリアを散策することをメインとしている。このツアーにはそれぞれお供となる「台本」が一冊ずつ用意さ…

物語を通して表象された、舞台としての「東京」

『四家の怪談』は演出家の中野成樹が現代版四谷怪談として書いた小説を手に、舞台となった北千住、五反野を探索する作品である。上演は「トーク」と「ウォーク」から構成される。指定された集合場所に着くと『四家の怪談』の物語が書かれた冊子と、舞台とな…

第三の悲劇について

「インドネシアから来た劇団です」――11月9日、シアタースタジオ・インドネシア『オーバードーズ:サイコ・カタストロフィー』開演前、池袋西口公園でフライヤーを配る者たちはしきりにそのフレーズを繰り返していた。インドネシアから来た――その情報を私は、…

手の中のカタストロフィー

船の形に組まれた竹の野外劇場は11月の空に高くそびえ、西口公演の中央でことさらに祝祭の匂いと、非日常の気配を放っていた。私と友人はそろってその船に乗りこみ、客席に座った。二人とも、昨年のF/Tアワード受賞作『バラバラな生体のバイオナレーション!…

ツアーパフォーマンス試論

0.はじめに 中野成樹+長島確によるツアーパフォーマンス『四谷雑談集』『四家の怪談』はその巡る先々に基本的には何も用意されていないという点に他の多くのツアーパフォーマンスとの違いがある。中野+長島による明白な仕掛けとして用意されているのはツ…

メンバー紹介

Performing Arts Critics 2013に参加するメンバーの紹介をしていきます。 随時更新予定。 リンクから今回の企画以前に各メンバーの書いたものが読めます。 昨年度のBlog Camp in F/Tはこちら。 朝比奈 竜生(あさひな りゅうせい) 1988年生まれ。神奈川県横…

Performing Arts Critics始動

みなさまはじめまして。 Performing Arts Critics、略称pacは若手の書き手によるレビューブログを中心とした活動です。 昨年度のBlogCamp in F/Tに参加していた何人かのメンバーを中心に、若手の書き手の活動と交流の場として企画されました。 2013年の11月…

マームとジプシー『cocoon』

いくら想像を逞しくしても追いつきようのない出来事に近づこうとするとき、演劇はどのような手だてをとることができるのか。マームとジプシーによる新作劇「cocoon」は、この問いを反芻させる。 原作は、第二次世界大戦末期、沖縄で「ひめゆり学徒隊」に従事…

マルセロ・エヴェリン/デモリションInc.『突然どこもかしこも黒山の人だかりとなる』

演劇にしろダンスにしろ、一方的に「見る」体験であることのほうがずっと多いのだが、そんな中でマルセロ・エヴェリン「そしてどこもかしこも黒山の人だかりとなる」は「見る」と同時に「見られ」もする奇妙な体験となった。 会場は真っ暗なブラックボックス…

都市表象から見るりりこの変容 岡崎京子『ヘルタースケルター』論

0. 序 岡崎京子の漫画『ヘルタースケルター』は、初め『FEEL YOUNG』誌(祥伝社)1995年7月号から1996年4月号に掲載された作品で、2003年には祥伝社から単行本が刊行されている。岡崎が交通事故に遭い、創作活動の中断を余儀なくされたために惜しくも未完と…